木管楽器奏法の基礎

木管楽器奏法の基礎となるのは
1)呼吸法
2)アンブシュアと息のコントロール
3)タンギング
4)フィンガリング
の4つであり、演奏において生ずる技術的な問題は概ねこの4つの要素のいずれかに原因がある。

1)呼吸法

管楽器を演奏するためには、我々が無意識に行っている自然な呼吸の何倍もの量の息が必要である。このような深いブレスは日常生活で用いる事がほとんどないので訓練により習得しなければならない。
「ゆっくりと最大限の息を取り入れる」練習から始め、深いブレスがとれるようになってきたら徐々にブレスをとる時間を短くしていくという方法で練習する。この時には「腹を緩める」のではなく「胸郭を広げる」という意識を持つ。
我々が呼吸する時は横隔膜、肋間筋等の呼吸筋を使っている。
「腹を緩める」というのはどちらかといえば横隔膜の動きに意識を向ける方法であり「胸郭を広げる」というのは肋間筋をより意識する方法である。呼吸はこれらの呼吸筋が連動している。何処に意識を向けるかの違いである。自然呼吸においては横隔膜以外の呼吸筋の動きは大きくないが、管楽器の演奏に必要な量の息を取り入れるためには胸郭を最大限広げなくてはならない。そのためには普段あまり使わない呼吸筋に意識を向ける事が大事なのである。横隔膜を意識するのは息を使う(吐く)時である。

演奏に際しては、息が完全に無くなる前に次のブレスを取らなければならない。息を使い切ってしまうと次のブレスには余分な時間が必要になる。また、ブレスは時間的余裕がどのぐらいあるかが大きな要素なので、必要量の息をとる時間的余裕が無い場合は、短いブレスを数回に分けてとるという方法もある。

2)アンブシュアと息のコントロール

ダイナミクス(音量)とピッチ(音程)にはアンブシュアと息の量が相互に関連している。
音量を大きくしたい時にはアンブシュアを緩めて息穴を大きくし、小さくしたい時には締めて息穴を小さくする。リード楽器ではリードの先端の開き(Cl.はリードとマウスピースの間の開き)がこれと同じ役割をする。
大きい音が必要な時はリードを緩めて先端の開きを大きくし、小さい音が必要な時はリード先端の開きを狭める。他の条件が同一であれば、大きな開きを持つリードで演奏すれば大きい音を楽に出す事が出来、小さな開きのリードでは弱音を楽に出す事が出来るのである。

  • 音程との関係

息の量が同じならばアンブシュアを締めると音程は上がり、緩めれば低くなる。アンブシュアが同じであれば、息の量を増やせば音程は上がり、減らせば低くなる。音程という要素が加わるため、我々は無意識にこの2つの要素(アンブシュアと息の量)のバランスをとって演奏している。どのダイナミクスで演奏するかによってもこのバランスは変化する。正しい音程で演奏するためにはいつもこの2つのバランスを的確に保たなくてはならない。

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ロングトーンはそれぞれの音のダイナミクスとピッチに対するアンブシュアと息の量のバランスを理解するために管楽器奏者にとって最も大事な練習である。

  • ヴィブラート

ヴィブラートとは息の速さを変化させることによって作る規則的な音の波である。
息を押すことにより(息のスピードを上げることにより)上昇の波が出来、上げた息のスピードを元に戻す時に下降の波ができる。波動の上下差が大きく間隔が狭ければ(息の速度の差と変化の回数が多ければ)緊張した速いヴィブラートになり、上下差が少なく間隔が広ければ穏やかなヴィブラートになる。この場合アンブシュアは一定なので、息の速さ(=量)を変化させれば音程の変化が生ずる。下図において、ヴィブラートをかける起点の音のピッチが波の下部だとすると、ヴィブラートがかかった状態で聞こえてくるピッチは波動の中間点(点線)になる。演奏者はヴィブラートによるこの音程の変化を理解しておかなければならない。
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また、ヴィブラートは音の揺れを伴うので、不適切なヴィブラートはフレーズの流れを妨げる。演奏者はフレーズに適したヴィブラートを選択する事が(ヴイブラートをかけないという選択も含め)重要である。

3)タンギング

タンギングは音質を決定する上で非常に重要な要素である。音の出だしの一瞬のレゾナンスは我々が音質を判断する大きな材料となっているからである。
タンギングの能力は個人差が大きい。そして言語の発音の違いによると思われるが日本人は欧米人に比べるとタンギングが不得手である。しかし舌も筋肉であるので訓練により習得する事が可能である。
舌は息の流れを塞き止めたり流したりする弁のような役割をしているにすぎない。明瞭なアタックのためには、舌を離すと同時に必要な量の息が適切なスピードで出ることが必要である。舌を離す前に口腔内には発音したい音に必要なだけの息の圧力がかかっていなければならないのである。また舌を動かす事により発音時のアンブシュアが変化しないように注意しなければならない。

基本のタンギングのセッティングは、フルートでは歯と歯の間から舌を出し、息穴を塞ぐ位置である。上歯の裏に舌をセッティングする方法等、タンギングの方法は一つではないが、現在の奏法では最も明瞭なアタックをするには上記のセッティングが望ましい。舌を直接リードに触れてアタックするオーボエやバスーンがフルートよりシングルタンギングの発音が明瞭であることを考えれば、舌で息穴を直に塞ぐ方がより明瞭なアタックが得られるのは明らかである。
タンギングの練習はスタッカートを基本として考える。雑音の入らない明瞭なスタッカートになるよう、息とアンブシュアのバランスに注意し、舌の動きは最小限になるように気をつけて練習する。

4)フィンガリング

フィンガリングのテクニックとは、どれだけ速く複数の指を同時に動かせるかということである。タンギング同様に指を動かす速さにも残念ながら個人差があるが、最低限のテクニックは練習の積み重ねにより身につけることが可能である。

  • 難しいパッセージの練習方法

パッセージとはいくつかの音の繋がりである。そして難しいパッセージも2つずつの音に分割すれば、ほとんどの場合簡単に吹くことが可能である。つまり難しさの原因は指のコンビネーションにある。

難しいパッセージというのは大概速いテンポであるため、演奏者は異なるフィンガリングを連続して非常に速く行わなければならない。このような非常に速いパッセージでは難しい運指、また運指のコンビネーションが難しい箇所で問題が生ずる。次に来る難しいフィンガリングを意識して指の筋肉が緊張するだけで問題は生じてしまうのである。難しいパッセージはまずゆっくり演奏して問題の箇所(音)を特定しなくてはならない。そしてその音と前後の音のフィンガリングの関係に意識を集中し、意識せずとも指が動くようになるまで様々な方法で練習する。

このような場合の代表的な練習方法としてはリズム練習があるが、これはリズムの変化を利用して意識を向ける場所を変化させる練習方法である。

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また次の様なグルーピングの練習も効果的である。これも音形の変化により意識する場所を移動させ、結果的に全ての音のつながりを意識せずに吹けるように練習する方法である。均等な音価でレガートに練習するという点で、個人的にはリズム練習より効果的な練習方法だと考えている。

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管楽器奏者は息を使ってレガートを作るが、息の使い方に加えてピアニストのように「指で」レガートをかけるという意識も大事である。またアンブシュアと息のコントロールも重要である。指ではなく、アンブシュアと息のコントロールに問題の原因があることも多いのである。

管楽器の奏法を言葉で説明する難しさは、そのほとんどが目で確認する事の出来ない身体の内部の動きだからである。また各人の骨格、体形も影響するので、様々なアプローチ、説明の仕方がある。良い教師に学ぶことは大事であるが、最後は自分自身が己の教師にならなくてはならない。耳を澄ませて自分の身体と対話することが最も重要なのである。